婚姻期間20年以上の夫婦間での居住用不動産の贈与等に関する優遇

2019年7月より施行され、配偶者保護を目的として制定された、婚姻期間20年以上の夫婦間での居住用不動産の贈与等に関する優遇措置について触れてみようと思います。

婚姻期間20年以上の夫婦間での居住用不動産の贈与等に関する優遇

結婚して20年以上経過した夫婦のどちらかから、その配偶者に対して、住んでいる家又はその土地を生前贈与した場合、その贈与は将来の相続において、相続財産の先渡しにならないという制度です。

分かりやすくイメージすると、
夫、妻、息子、娘の4人家族で、父の財産が自宅4000万円(持ち分2分の1を夫から妻へ生前贈与していた⇐特別受益)と、預貯金2000万円であった。

この状況下で夫が亡くなれば、民法の規定(第903条第1項~第3項)では、相続財産は自宅4000万円と、預貯金2000万円となります。
※夫が自宅の持ち分2分の1を妻に生前贈与(特別受益)しているので、相続財産における自宅の評価が、半分の2000万円になるわけではありません。

しかし、その規定通りに法定相続がなされれば、妻3000万円、息子1500万円、娘1500万円の相続になります。妻が自宅4000万円をまるごと相続した場合、1000万円の現金を息子と娘の相続分として用意しなければならなくなります。

そこで新たに、第903条第4項が新設されました。
「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない意思を表示したものと推定する。」という条文です。

それに照らし合わせてみると、相続財産の総額が4000万円になり、妻2000万円、息子1000万円、娘1000万円となり、自宅をまるごと相続することができ、息子と娘への相続分として現金を用意する必要もなくなります。

特別受益とは

「特別受益」とは、相続人が被相続人から生前に結婚の支度金や居住している住宅等の生前贈与を受けていたり、相続開始後に遺贈を受けたりするなど、被相続人から特別な利益を受けていることを言います。
多額の生前贈与を受けた相続人もいれば、何ら一切もらっていない相続人がいるケースでは、法定相続分に従って遺産を承継することになると、不公平な相続になります。

このような不公平を是正するために、相続法では相続分の計算をするうえで、生前贈与や遺贈を「特別受益」とし、遺産にその特別受益の額を反映したうえで、各相続分を計算することができると規定されています。このような計算を、「特別受益」の持ち戻し計算といいます。先ほどの具体例 ※のところです。

持戻し免除の意思表示とは

持戻し免除の意思表示とは、被相続人から遺言等で、特別受益の持戻し計算はしなくてよい、との意思表示があれば、遺産分割時に持戻し計算をしなくてよいという規定です。よって生前贈与を受けていた相続人は、他の相続人よりも多くの相続財産を受け取ることができます。

しかし、この持戻し免除の意思表示は、一般的にはあまり活用されてはおらず、特別受益の影響を受ける場面の方が多く見受けられました。それらを踏まえて、改正相続法では配偶者の保護を図る規定が設けられたということです。

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