配偶者居住権

2020年4月より、「配偶者居住権」という新しい権利が認められるようになります。そこで、この新しい権利「配偶者居住権」について触れてみようと思います。

配偶者居住権とは

「配偶者居住権」とは、相続が発生する前から住んでいた配偶者の自宅は、配偶者がその自宅の権利を相続しなかったとしても、これからもその自宅に住み続けても良いという権利です。

分かりやすくイメージすると、
Aさん(80歳)は、3000万円の自宅と、1000万円の預金を持っていました。Aさんには妻(70歳)と、一人の息子(40歳※結婚済み4人家族で自宅を所有)がおり、実は妻と息子は仲が悪かったのです。そして、Aさんが亡くなってしまいました。

相続が発生しますが、仲の悪い妻と息子は案の定、遺産の分け方については合意に至らず、法定相続分である2分の1ずつ、遺産を分けることになりました。

遺産の総額は4000万円ですので、お互い2000万円ずつとなります。そうなると、自宅の3000万円を売却してお金に換えざるを得なくなる可能性が出てきます。

高齢である妻が、30年以上生活をしてきて住み慣れた自宅を売却し、新しい住居を見つけるのは大変です。高齢者は比較的、賃貸物件を契約するのにも審査が厳しい傾向にあります。また、住み慣れない場所に引っ越すことは、不安やストレスを抱いてしまうでしょう。

このような事態が起こらないようにするために、新しく「配偶者居住権」とういう権利が認められることになりました。

配偶者居住権のポイント①

自宅の権利を2つに分離させることによって、残された配偶者の自宅に住み続ける権利を守りつつ、遺産分割協議を円滑にすることを目的としてつくられたものになります。

不動産には所有権という権利があります。この所有権には、その不動産を自由に取り扱うことができます。言い換えれば、住んだり、賃貸したり、売却したりです。

「配偶者居住権」という制度は、所有権という権利を【住む(使う)権利】と【住む(つかう)以外の権利】に分離して、別々の人が相続することを認める制度です。配偶者には【住む(使う)権利】を、その他の相続人には【住む(使う)以外の権利】を相続させることが可能です。

この【住む(使う)権利】のことを「配偶者居住権」といい、【住む(使う)以外の権利】のことを、負担付所有権といいます。

先ほどのケースでいうと、自宅は3000万円の価値がありますが、これを「配偶者居住権」と、負担付所有権の2つに分離させます。仮に「配偶者居住権」の価値が1500万円で、負担付所有権が1500万円だったとします。

遺産総額4000万円のうち、妻は「配偶者居住権」1500万円と預金500万円の合計2000万円を相続し、息子は負担付所有権1500万円と預金500万円の合計2000万円を相続することで、ちょうど半分ずつになります。よって、自宅は売却せずに済むということです。

配偶者居住権のポイント②

相続発生時にその自宅に住んでいた配偶者にだけ認められ、かつ登記が必要になります。したがって、相続発生時に別居をしていた夫婦には認められません。

そして、「配偶者居住権」は、不動産の登記簿謄本に登記をしなければ、第三者に対抗できないことになっています。つまり、遺産分割協議で配偶者居住権を相続することが決まっていても、登記をしないままだと、新しい所有者が勝手に売却してしまうかもしれません。

登記する人は、配偶者と負担付所有権者が共同して申請します。登記される内容は、通常の所有権登記をする時と同じ感じですが、2点の大きな違いがあります。

一つ目は、存続期間の記載をすることです。原則は終身ですが、10年、20年と期間で区切ることもできます。

二つ目は、第三者へ自宅を使用させたり賃貸することを許可する場合には、その旨の記載をすることです。また、登記は建物のみにされます。土地にはされません。

登記の共同申請は、配偶者にとっては必要ですが、負担付所有権者になる息子等にとっては、面倒で消極的な感じになる可能性もあります。しかし、所有者は登記をする義務があります。新民法1031条(配偶者居住権の登記等)に明記されております。

配偶者居住権のポイント③

「配偶者居住権」を相続した配偶者は、その権利を売却したり、相続させることはできません。

この権利は、あくまで配偶者にだけ認められた特別な権利なので売却はできません。また、「配偶者居住権」は、その配偶者の死亡によて消滅するため、その権利を誰かに相続させたりすることもできません。

そして「配偶者居住権」が消滅した後は、負担付所有権者であった人が、その不動産の一切の権利を所有することになります。つまり、負担付がなくなり、通常の所有権者に戻るということです。

配偶者居住権の問題点

配偶者にとって有利な内容ばかりではありません。この制度には、以下のような問題点が指摘されています。

「配偶者居住権」の評価額の算定方法が明確ではありません。
また、配偶者が若い年齢であれば、若年者が一生住み続けることを考慮すると、「配偶者居住権」の評価額が所有権(負担付所有権)と同程度に高額の算定をされる可能性が高くなり、住宅以外の財産である現金等の取得額が低くなってしまいます。

それから、「配偶者居住権」の取得期間が終身の場合は、その後のケガや病気、その他の事情で老人ホームなどへ入所することになっても、当該「配偶者居住権」を売却することができないという問題点があります。

配偶者短期居住権とは

配偶者短期居住権とは、被相続人の配偶者が相続開始の時に無償で居住していた建物に、最低6ヵ月間無償で使用できる権利です。

これは、相続開始後の短期間の住まいの確保のための権利で、主に高齢の配偶者の住まいの確保のために設けられたものです。

この配偶者短期居住権と、「配偶者居住権」との違いは、「配偶者居住権」の配偶者には居住建物の使用及び収益権が認められていますが、配偶者短期居住権を有する配偶者には、従前の用法に従い善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならないもとされ、居住建物の使用権しか認められていません。

また、配偶者短期居住権は、登記ができません。
そして、配偶者が居住建物に係る「配偶者居住権」を取得した時は、配偶者短期居住は消滅するものとされています。

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