自分が死んだ後、取り残されたペットの世話はどうすればよい・・・

路頭に迷う犬

 昨年夫に先立たれてしまい、今は5歳になる愛犬と一緒に暮らしています。そこで最近、この愛おしい愛犬のことで一つ心配事があります。

 もしこの先、愛犬よりも私の方が早く逝ってしまったら、この子の面倒はいったいどうすればよいのかと考えてしまいます。一人娘がいますが嫁いでおり、娘夫婦の暮らす住居はペットが飼えない集合住宅です。私の死後も愛犬が不自由なく暮らせるための方法は何かありますか。

遺言(負担付遺贈)を遺す

 まずは自分の死後に愛犬の面倒をみてくれて、信頼のおける人を探してみましょう。そして、その人にお世話を頼めるのかを聞いてみましょう。

 引き受けてくれる人が見つかれば、その方に対して遺言により愛犬とご自身の一定の財産を遺贈するとともに、愛犬の面倒をみてもらうようにすることです。つまり、一定の財産とは愛犬の面倒をみてもらう対価という意味合いです。

 では、具体的にはどのような遺言を遺せば良いのでしょうか。
例「1、遺言者は、甥A(友人X)に対して、愛犬タロウと〇〇銀行△△支店の遺言者名義預金のうち200万円を遺贈する。2、A(X)は、上記遺贈を受ける負担として、遺言者の死亡後、愛犬タロウの世話を誠実に行うこと、また、愛犬タロウが死亡した場合には、ペット霊園に埋葬すること」

 上記のような内容になります。こうした受遺者(AまたはX)の負担を伴う遺贈を負担付遺贈といいます。
<参考>民法第1002条
①負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
②受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 遺言者として不安に思う事があります。頼んだ人がきちんとやってくれない場合があるかもしれません。そのような時は、他の相続人(娘)や遺言執行者から受遺者に対して、義務を履行するように催告をすることができます。そして催告を受けたにも拘らず一定期間義務の履行がなければ、遺言の取り消しを裁判所に請求することができます。

 遺言執行者とは、遺言の内容が実現されるように手続きを行う人のことです。法律上は相続人の代理人とみなされ、相続をスムーズに進めるための権限を持っています。遺言で特定の人を指名したり、第三者に委託して決めてもらうことができます。相続人がいないような場合であれば、遺言執行者を選任しておいた方が良いでしょう。遺言執行者には、深く信頼のおける人か法律に詳しい専門家などを選任するのが無難ではないでしょうか。

 あと注意しなければならないのは、この負担付遺贈は受遺者が放棄できるという性質を持っています。極端なことを言えば、遺言者の一方的な行為(受遺者の承諾なしでも可)でも構わないということです。しかし放棄されれば遺言の内容が実現されず、愛犬が路頭に迷ってしまいます。

 負担付遺贈をする場合には、制度上たとえ相手の了承が不要だったとしても、遺言書にその旨を記していること説明し承諾を得ておくこと、そして義務を履行しているかどうかを見守る役目を果たす遺言執行者を指定しておくことが重要です。

負担付死因贈与の契約を交わす

 死因贈与とは、贈与をする人(贈与者)の死亡によって効力を生ずる贈与内容を、贈与を受ける人(受贈者)と事前に契約をして法律上の義務を負ってもらうことをいいます。そこに負担付遺贈と同じく、受贈者に一定の義務を負担してもらう条件を付けた死因贈与のことを負担付死因贈与といいます。今回の場合ですと、ペットの世話をしてもらうという条件で財産を贈与します。

 遺贈と大きく違う点は、遺贈は一方の意思だけで出来ますが、契約は双方の同意が必要という点です。また、契約の相手方は個人ではなく、法人でも受贈者になることが出来ます。契約は、当事者の合意のみで成立しますが、後々のトラブルを避けるためにも、書面を作成しておくべきです。双方の合意による契約なので、受贈者は原則として放棄することはできません。

 死亡が効力発生の原因となる死因贈与は、性質上遺贈に類似するものとして、遺贈の規定が準用されるので、執行者を指定することが出来ます。執行者は負担付遺贈と同様に、義務の履行(ペットの世話)がされていない場合に、改善するよう請求することができ、場合によっては死因贈与の撤回を家庭裁判所へ申し立てることができます。

 負担付死因贈与において、主にやるべきことは次の5つです。
 ①ペットの世話をしてくれる人(受贈者)を決める
 ②ペットの世話の内容を決める
 ③ペットの飼育にかかる資金の資産をする
 ④受贈者とペットの世話の内容、贈与金額について契約を交わす(書面にて作成)
 ⑤執行人を決める

 以上のように、負担付死因贈与は契約ですから、負担付遺贈よりもペットの世話の内容を細かく決めることができます。そして、原則受贈者による放棄ができません(合意により了承を得ている)ので、負担付遺贈よりもペットの世話をしてもらえる可能性が高い方法といえるのではないでしょうか。

ペットのための信託を利用する

 ペット信託とは、飼い主があらかじめ財産の一部を信頼できる人や団体に託し、自分に何かあったとき、その財産からペットの新しい飼い主や預かり施設に対し、飼育費などが支払われる仕組みのことです。

 ペットのための信託は、開始時を自由に決めることができます。飼い主が亡くなった時はもとより、病気で入院した時や認知症などで老人ホームに入所した時でも可能です。また、信託監督人を定めて財産の管理やペットの飼育について、きちんと約束が守られているかを見守ってもらうこともできます。

 そして、飼い主が亡くなった場合、ペットのために信託されたお金は、相続財産とは別に扱われるので、負担付遺贈よりも確実にペットのために財産を遺せる可能性が高いです。

 ペット信託のイメージとしては、ペットと飼育費(餌代や医療費等)を信託財産として、家族や知人を受託者として託します。受託者は自分で育てても構いませんし、ペット不可の集合住宅などに住んでいて飼うことができない事情がある場合は、施設やペットシッターに信託財産の中から費用を支払ってもらいます。もし、受託者や施設で管理が適正に行われているか心配であれば、専門家が信託監督人として、信託財産の使途や飼育状況について定期的に確認をし、不適切なところがあれば是正を促します。

 ペット信託の特徴
 ①ペット信託をするとペットを託された受託者は、現金や預金等の財産を信託契約で決められた範囲内でしか支出をすることができませので、結果としてペットのためにしか支出することができません。そのため、ペットを終生飼育していただける方、飼育していただける方の管理監督をしてくれる方に託すことになります。

 ②信託契約は、財産を譲る方からの一方的なものではなく、あくまでも当事者同士の契約のため、ペットの世話をする方と十分に打ち合わせをすることができ、また事前に利用する施設やペットシッターを指定しておくことができます。 

 ③信託契約の内容次第では、もしペットが天寿を全うしたときは、残った財産を相続人やその他の親族や友人等の特定の人物に譲ることを決めておくことも可能です。

 ④裁判所の関与なく受託者を自由に決めることができるので、親族に限らず信頼のおける知人に任せることもできます。また、信託契約の内容が適切に守られているかチェックするために、信託監督人という第三者機関を設置することもできるので、後見人や裁判所の関与が無くても安心して実効性を確保することができます。

 ⑤成年後見人等が就いた場合でも、後見人の管理する財産とは分かれますので、成年後見人や裁判所の関与なくペットの飼育費や医療費を支出することができます。

 ⑥相続が開始した時だけではなく、認知症になって後見人が就いた場合でも受託者(親族や知人)がペットシッターに世話をお願いしたり、ペットホテルや老人ホームに入所させたりすることができます。

まとめ

 ペットは法律上物として扱われます。そのため、ペットに遺産を承継させることはできません。そこで、もしもの時に備えペットの飼育を任せる方法を事前に検討しておく必要があります。

 ペットの飼育を任せる主な方法として、負担付遺贈負担付死因贈与ペットのための信託の3つがあります。それぞれ、メリットとデメリットがありますので、慎重に比較検討しましょう。近年の少子化傾向と相まって、特にペットを子供のように可愛がって、家族同然のように共に生活する方が増えてきてます。

 それに応じて、ペットのいる場合の生前対策についての相談が増加傾向にあります。愛するペットが最後まで幸せに生きていけるように生前対策はしっかりしておきましょう。

僕幸せだよ
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