遺言をのこすべき人 7選

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〖遺言を遺すべき人〗 ⒈未成年の子がいる ⒉子がいない ⒊内縁の妻がいる ⒋相続人が誰もいない⒌障害のある子がいる ⒍疎遠な親族や行方不明者がいる ⒎再婚相手に子がいる

遺言書作成のメリット&デメリット

メリット① 遺産を自分の思い通りに処分できる
 遺言書がない場合は、被相続人(亡くなった人)の遺産は、相続人全員の協議により分割されることになります。つまり、遺言書が存在しなければ、遺産の分け方を相続人間で協議することになり、被相続人の意思は反映されません。
 遺言書を作成しておけば、一部の相続人に法定相続分より多く遺産を相続させたり、相続権のない人に遺産を与えることができます。

メリット② 不動産の相続登記手続きが簡単になる
 不動産の登記手続きは、登記により利益を受ける者(登記権利者)と利益を失う者(登記義務者)が共同で申請するのが原則です。
 しかし、不動産について “相続人Xに相続させる” という内容の遺言書を作成しておけば、相続人Xは相続開始後、遺言書に基づいて単独で不動産の相続登記手続きを行うことが可能になります。

メリット③ 遺産の処分以外の事項も定められる
 遺言書を作成する際に、子の認知や未成年後見人の指定など身分に関すること、相続人の廃除や祭祀主催者の指定などを記載しておけば、遺産の処分以外の事項も定めることができます。

遺言書4



デメリット① 不満を抱える相続人が出てくるかもしれない
 法定相続分の割合よりも少ない遺産しか相続できない相続人が、遺言書の内容に不満を抱く可能性があります。

デメリット② 遺言書の方式によっては費用がかかる
 公正証書遺言の場合は、いくらか費用がかかります。その分確実な遺言書をのこすことができます。

〖遺言を遺すべき人〗 ⒈未成年の子がいる

 夫婦2人と未成年の子がAとBの2人、という4人の家族構成において夫が亡くなった場合は、夫の財産は妻と子2人が相続することになります。もし遺言書がなければ、妻と子2人の計3人で遺産分割協議を行う必要があります。
 
 しかし、未成年は遺産分割協議に参加することはできず、代理人を立てなければなりません。ふだんは法定代理人である親権者が、子に代わって行為を行うことがほとんどですが、この遺産分割協議においては未成年の子を妻が代理することはできず、特別代理人を家庭裁判所に請求し、選任された特別代理人が未成年者の代理人として、遺産分割協議に参加することになります。

 では、なぜ親権者である妻は代理できないのでしょうか。それは、妻自身も相続人であるため、妻と子2人の関係、また未成年の子AとBとは財産を取り合う関係にあるからです。このような関係を利益相反関係と言い、このような利益相反関係にある場合は親権者が代理することは許されません。自分あるいは特定の子に有利な行為を行い、不利益を受ける子がいるかもしれないからです。
 
 そこで民法では利益相反関係にある場合には、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらい、特別代理人が遺産分割協議に参加することで不公平な行為がなされないようにしています。もし、遺言書で明確に財産分けを指定しておけば、このような煩雑な手続きを回避することができます。

〖遺言を遺すべき人〗 ⒉子がいない

 子がいない夫婦の場合、親が生きていれば配偶者と親がそれぞれ、3分の2と3分の1を相続します。親が亡くなっていれば配偶者と兄弟姉妹が、4分の3と4分の1を相続することになります。また、兄弟姉妹がすでに亡くなっていれば、兄弟姉妹の子である甥や姪が兄弟姉妹の代わりに相続します。
 
 例えば、夫が早くして亡くなったとします。被相続人である夫の母親が存命であれば、妻と夫の母親が法定相続人となり遺産分割協議を行います。この時、もし夫の母親が認知症になっていたら、判断能力がないとみなされ遺産分割協議を行うことができません。その場合は、家庭裁判所に申し立てて法定後見人を選任してもらわなければなりません。
 
 被相続人である夫の父母が2人とも亡くなっていたら、法定相続人は妻と夫の兄弟姉妹が法定相続人となり、妻は夫の兄弟姉妹と遺産分割協議を行うことになります。親しくお付き合いがあれば良いですが、遠方に住んでおり日頃から疎遠であれば、集まるだけでも大変であり話し合いが円滑に進まないかもしれません。その兄弟姉妹のうち誰かがすでに亡くなっている場合は、その子、つまり夫の甥や姪が法定相続人になるため、より一層面倒なことになる可能性があります。

 このように、子がいない夫婦のどちらかが亡くなった場合、残された配偶者にとって遺産分割協議が重荷になる可能性があり、夫婦ともそれぞれが遺言書をのこしておくと良いでしょう。
 
 子がいない夫婦のケースで、すべての財産を配偶者に相続させたい場合は、「財産はすべて妻(夫)に相続させる」と遺言書に書きます。親が存命で遺留分の割合は残したいのであれば、全ての財産の6分の1程度の現金(預金)などを渡すようにして、それ以外は配偶者に相続させるようにすれば良いです。また兄弟姉妹には遺留分はないので、遺言書は「全財産を妻(夫)に相続させる」と遺言書に書けば良いでしょう。

〖遺言を遺すべき人〗 ⒊内縁の妻がいる

 相続が開始すると、基本的に法定相続人が遺産を相続します。ことのき、配偶者、子、親、及び兄弟姉妹は法定相続人になる可能性がありますが、内縁の妻は法定相続人にはなりません。内縁の妻とは、婚姻届けを提出していない事実上の夫婦関係の妻のことです。内縁の妻であっても、遺族年金の受給者になることができるし、内縁関係を解消するときには財産分与請求などもできて、法律婚の妻と同じような保護が図られている側面もあるのですが、相続の場面においては相続権が認められていません。
 
 また、内縁の妻との間の子も、認知をしていなければ相続権がありません。内縁の妻やその人との間の子に相続権がない場合、親が生きていれば親が相続し、親が亡くなっていれば兄弟姉妹が相続してしまいます。このような場合遺言書を作成することで、内縁の妻、その人との間の子に財産を渡すことができます。

 前妻との間の子がいる場合は、その子が法定相続人となります。そこで、今居住している家が自分の名義である場合には、その家は子の所有物になってしまいます。また、自分名義の預貯金や株券その他の資産がある場合にも、それらの資産は子のものとなります。
 
 相続開始後、もし子が内縁の妻に遺産の引き渡しを請求したら、内縁の妻は拒むことが難しくなります。このような場合には、子の遺留分にも配慮しながら、遺言書を作成しておけば内縁の妻に財産をのこすことができます。

〖遺言を遺すべき人〗 ⒋相続人が誰もいない

 相続人が誰もいない場合は、特別縁故者に該当者がいなければ、故人の財産は国に帰属することになります。この特別縁故者とは、被相続人と一緒に暮らしていた方や、身の回りの世話や看護をしてくれた方などが該当する可能性がありますが、特別縁故者として遺産を取得しようとする場合は、ご自身で家庭裁判所へ申し立てを行い、その家庭裁判所から特別縁故者として認可されなければならない、という非常に煩雑な制度となっています。

 自分の死後、財産を相続する権利を有する人を推定相続人といいます。その可能性のある親族は、配偶者、子や孫などの直系卑属、親や祖父母などの直系尊属、兄弟姉妹や甥姪です。これらの推定相続人がいない場合は、残された財産は原則として国に帰属します。例えば、いとこは親族ですが推定相続人とはならないので、いとこがいたとしても残った財産は原則国に帰属します。

 推定相続人がいなくて、いとこなどの親族に財産をのこしたい場合や、生前お世話になった友人や知人、そして自治体、社会福祉法人やNPOなどの公共性の高い福祉事業を行っているところに財産をのこしたい場合は、遺言書を作成しておきましょう。
 
 なお、相続人がいないと思っていたが戸籍を調べたところ、相続人が見つかるといったケースも稀にありますので、今のうちにご自身で調べるか、専門家に調べてもらっておけば安心でしょう。

〖遺言を遺すべき人〗 ⒌障害のある子がいる

 障害のある子がいる場合、親としては自分が死んだ後も残された子が、財産的に不自由なく十分な療養看護がなされ、安心して生活できるかどうか不安に思われます。このような財産的、身上監護的なケアを検討する際には、成年後見制度や信託制度の利用などの選択肢がありますが、遺言書を作成しておくことも1つの方法です。
 
 例えば、遺言書で、
🔹複数の子がいる場合、障害のある子に財産を多く相続させる

🔹将来の面倒を見てくれる信頼できる親族に財産を遺贈する代わりに、その負担として遺贈した自宅に障害のある子を無償で住まわせ、毎月の生活費として一定額を支払うこことする

🔹受益者を障害のある子、受託者を信託銀行として、定期給付金を設定する

といったように記載して、障害のある子の将来の安心設計をしたり、その一部とすることも可能です。

 そして、判断能力が不十分な子がいたときに遺言書がなかった場合は、遺産分割協議が進まなくなる可能性があることに注意する必要があります。遺産分割協議とは、被相続人が遺言をのこしていなかった場合、その財産をどのように分けるかを相続人同士で決めることをいいます。つまり、遺言がない場合はこの遺産分割協議によって、それぞれの財産を誰が取得するのかを決めるということです。

 遺産分割協議を成立させるには、2つの要件があります。1つは相続人全員が参加していること、2つ目は相続人全員が十分な判断能力を有していることです。このうち後者については、特に注意が必要です。なぜなら、遺産分割協議に参加する相続人の中に、知的障害や精神障害があって十分な判断能力を有していない方がいる場合、遺産分割協議が成立しない可能性があるからです。
 
 また、遺産分割協議の成立を証した遺産分割協議書には、相続人全員が役所において登録をしている実印を押印し、かつ印鑑証明書を添付しなければならないので、役所においてそういった手続きができなければ、実際の手続きに支障が出てきます。被相続人名義の銀行口座が凍結されたままになってしまったり、不動産の名義変更や売却なども行うことができないままになってしまいます。

 相続人の中に判断能力が不十分な方がいることで、遺産分割協議が成立しないというような場合は、成年後見制度を利用する必要があります。判断能力が不十分な方の代わりに遺産分割協議をしてくれる、成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立てます。
 
 ただし、
🔸家族の意思ではなく裁判所が選んだ専門家が後見人になる

🔸成年後見人は一度利用するとそこから解任することが難しい

🔸専門家が後見人に選任された場合、月額の後見人報酬がかかる

といった理由から、成年後見制度の利用に対して消極的な意見があることも事実です。

 生前に財産を持っている方が事前に対策をしておけば、遺産分割協議が成立しないといった事態や、成年後見制度を利用せざるを得ないといった事態に備えることが出来ます。その最も簡単で有効な手段が、遺言書作成でしょう。

〖遺言を遺すべき人〗 ⒍疎遠な親族や行方不明者がいる

 相続人の中に、疎遠になっていたり行方不明になっている者がいる場合でも、遺言がなく死亡した場合には、相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。そうなると、遺産分割協議がうまくまとまらず滞留してしまします。
 行方不明はもちろんのこと、疎遠になり連絡先が分からないといったこともよくあります。遺言書がない場合、連絡が取れないからという理由だけで、不動産の名義変更手続きや預貯金の払い戻し請求等をしようと思っても対応してもらことができず、原則としてすべての相続手続き進めることができません。

 このような場面に直面すると、非常に煩雑な対応が迫られます。まずは、被相続人の戸籍から該当相続人の戸籍をたどり、最新の戸籍までたどり着いたらその本籍地において戸籍の附票を取得します。戸籍の附票には対象者の住所地の記載がありますので、住民票の住所が判明したら、直接そこへ訪ねるか、そこの住所宛てに手紙を送ってお願いします。

 ただし、人によっては住民票の住所と、実際に生活している居住地が必ずしも一致するとは限りません。行方不明にいたっては、そもそも住所だけでは所在は判明しません。そのような場合は、家庭裁判所に対して不在者財産管理人の選任申し立てを行うことになります。
 申し立てができるのは、不在者がいることで遺産分割協議が行えない相続人、不在者が相続できない恐れのある不在者の親族、遺産分割協議が行えないことにより債権回収ができない被相続人の債権者など、不在者がいることにより利害関係が生じる人物です。また、検察官が申立人となる場合もあります。

 不在者については現在行方不明の人だからといって、その人には財産をのこす必要はないとしてはいけません。不在者の財産を奪うような遺産分割協議の内容だと、家庭裁判所から不在者財産管理人へ権限外行為の許可がもらえないため、不在者にも財産をのこすような遺産分割協議の内容にしなければなりません。

 これらのように、相続人の中に疎遠な方や行方不明者がいる場合の遺産分割協議は、相当煩雑なものになります。このような事態にならないためにも、疎遠になっていたり行方不明になっている者以外の特定の推定相続人に財産を相続させる等と、記載した遺言書を作成することで、相続発生時に遺産分割協議をする必要もなく、不自由なく財産の引継ぎが可能になります。

〖遺言を遺すべき人〗 ⒎再婚相手に子がいる

 再婚した相手に子がいる場合、養子縁組をしない限り法律上の親子関係とは認められません。つまり、再婚相手の連れ子には相続権がありません。法律上、遺産を相続する権利が認められるのは、配偶者(常に相続人)、子(第1順位)、親(第2順位)、兄弟姉妹(第3順位)です。配偶者以外の相続人には順序があり、まずは子、子がいないときは親、子も親もいないときは兄弟姉妹が相続します。
 
 ここで、子として相続できるのは、「実子」と「養子」のみです。再婚相手の連れ子は実施や養子のような法律上の親子関係ではないので、相続権が認められません。連れ子が再婚相手の父や母と仲睦まじく、また長年に渡り生活を共にしていたとしても、法律上の親子関係がない以上相続することがでないのです。

 実子と同様に再婚相手の子にも財産をのこしてあげたいときは、養子縁組をして相続権を持つ子という立場にするか、もしくは再婚相手の子に財産を遺贈する旨の遺言書を作成するといった方法があります。
 養子縁組とは、親子関係になり両者を法律上の親子としてみなす手続きのことです。相続において、養子は実子と同じ扱いになるため、養子であれば相続権を得ることができます。
 養子縁組を行わない場合でも、連れ子に相続財産を譲ることを記した遺言をのこせば、相続権のない連れ子でも財産を受け取ることができます。

 再婚相手の子だけではなく実子もいる場合は、少し注意が必要です。再婚前の前婚のときに生まれた子がいる場合には相続権があるという点です。
 例えば、A男には前婚のときに子1人、そして再婚してからの子1人いたとします。この場合、前婚の妻との間にできた子にも相続権が認められます。前婚の妻との子は実子であり、その子にとってたとえ両親が離婚したとしても、親子関係は変わらないからです。なお、前婚の子の相続割合は死亡時の家族の子と同じなので、前婚の子だからといって相続割合が減らされることはありません。
 
 これらのことから、再婚の連れ子だけではなく実子もいる場合は、遺言で連れ子にのこす財産が実子の遺留分を侵害しないかどうかの配慮は必要かもしれません。ただし、遺留分を侵害してはいけないと言っているのではなく、あくまで侵害している場合は、実子から遺留分侵害額請求される可能性があるということにご留意ください。